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「タダ同然の廃墟物件」に買い手が集まる理由

「価格はゼロ円、佐賀の一軒家を土地、家具・家電付きでもらってください」「越後の田んぼ付き農家を理由あって格安でお譲りします」――。近年、空き家が社会問題になっているが、通常の不動産流通には乗らないような物件の売買ができる不動産サイトがちょっとした話題になっている。

たとえば、冒頭の越後の物件は、所有者が隣町に引っ越したことで空いてしまった。土地面積は約204㎡で建物は約112㎡、しかも1000㎡の農地付きで、価格はなんと80万円。山奥の物件だが、海水浴場まで45分と、別荘としては理想的な立地のようだ。「家いちば」には、こうした物件が数多く掲載されている。

全国から物件を掲載したいという要望

空き家に対する認識は、近年大きく変化している。たとえば、2年前には問題にされていなかった所有者不明土地が大きくクローズアップされ、日本には想像以上に放置されている土地が多いことがわかった。しかも、収益性で考えると使える空き家は10軒に1軒程度と、意外と少ないこともわかってきた。

一方で、空き家の活用方法が多様化しているほか、活用によっては町にプラスの影響を与えることも認識され始めている。空き家を対象としたクラウドファンディングやマッチングサイトなども登場している。

その中でも、筆者が面白いと思うのが、家いちばだ。不動産コンサルタントの藤木哲也氏が家いちばを立ち上げたのは2年前の10月。ほとんど広告していないにもかかわらず、この間、鹿児島から北海道までの128物件が掲載され、うち15件が契約に至った。

冒頭の佐賀の物件には、60件を超す問い合わせがあり、記事を執筆しているうちに買い手が決まった。23日に1件は掲載の依頼があるが、掲載文の校正作業などがあり、現在では掲載待ちの物件がつねに30件ほどあるほか、契約書作成待ちが数件という状態になっている。

入札情報サービスを提供する「うるる」が行った2016年の「空き家バンク運営実態調査」では、回答した219自治体の空き家バンクの平均成約率は月0.4件だから、家いちばの成約率がいかに高いかわかるだろう。

その要因の1つは、従来の不動産取引とは違う掲載条件の緩さにある。価格が決まっていなくても、どんな場所でどんなに古くても、残置物が多くて片付いていない状態でも掲載できるほか、本人の許可があれば親や親戚が所有する物件を無料で掲載できるのだ。

従来の不動産流通では残置物があるだけで扱ってもらえないと思われていたことを考えると、これまで弾かれていた物件が流通に乗るようになったのである。素人の文章、写真にアドバイスをしたり、校正するなどして読まれるようにしている点も大きい。

「もらってくれるならタダでも」という例も

この活況ぶりから、いくつかわかることがある。1つは、売る側の意識の変化だ。家いちばを利用する空き家所有者にとって不動産は重荷であり、資産ではない。実際、「もらってくれるならタダでもいい」という例が多く、最近ではタダなうえに「残置物等処理代として50万円を進呈しますという」秋田の物件さえも出てきている。

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150万円で取引された高原の別荘。別荘ではこれから2次相続で売りに出される物件が増えることが予想される。この物件のような保存状態のよい物件であれば、かなりお得だ(写真:家いちば提供)

価格がついている物件でも、かなりの破格値で売買されている物件が少なくない。たとえば、少し前に契約が成立した高原の別荘は、バブル時代に土地代だけでおそらく数百万円で取引されていたと思われるうえ、建物も残置物さえ撤去すれば住めるような状態だった。それがなんと150万円。売買に時間をかけるより、早く手放して楽になりたいと考えている売り手の気持ちがすけて見える。

買う側も変わってきている。資産としてではなく、利用するものとして不動産を考えていると言えばいいだろうか。たとえば、前述の高原にある別荘を購入した人は、「10年遊んで、10年後にまた150万円で売ればいい」とクール。別荘維持のためにかかる管理費は、「遊ぶための費用」と割り切っているようだ。

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神戸の無料物件の内部(写真:家いちば提供)

廃墟同然の神戸の無料物件にも、30人以上が興味を示した。玄関が壊れているため、自由に内見してもらうようにし、入札にしたところ、7人が応札。タダでいいという物件にもかかわらず、40万円で売れた。使い勝手があまりよくなさそうな物件を、おカネを払って手に入れる行為はなかなか理解しがたいが、自分で好きにしていい建物を手に入れたい人には面白い「おもちゃ」を買った感覚なのかもしれない。

一般的には住宅ローンが使えないため、売れないとされる借地権付きや築年数の古い物件も、100万円前後の物件が多いこともあり、どんどん売れていく。前述の50万円進呈という物件にも100件近い問い合わせがあったため、入札となり、最終的には数十万円という値がついた。

売る側、買う側の意識の変化で空き家流通が進み始めているが、大きな障壁もある。それが先祖伝来の土地や屋敷を売ることに罪悪感を覚えるといった意識の問題である。今回、藤木氏とともに訪れた首都圏近郊の住宅では、所有者は「相続してすぐに売ったとなると何を言われるか、近所の目が気になる」と話す。都心ではそうした意識は薄いかもしれないが、首都圏でも農地の残るエリアでは根強いのである。

空き家が流通しにくい理由

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見学に行った首都圏近郊の、屋敷林を背後にした住宅。今どきの家族構成を考えると広すぎるうえに、敷地内の植栽等の手入れに多額の費用がかかる(写真:家いちば提供)

この住宅の場合、半年前まで人が住んでいたため、建物はさほど傷んでいない。が、問題は山林と庭。草刈りを、年に3回地元のシルバー人材センターに頼んでいるが、それが115万円かかるうえ、庭師にも隔年で35万円支払っている。さらに、近隣に枯葉をまき散らす巨木伐採には100万円以上の見積もりが出ている。

相続した後にこうした負担がかかることがわかったが、残置物だらけの状態では一般の不動産会社には頼めないと、悩み果てていたところ、家いちばを知ったという。物件を掲載すると、数多くの問い合わせがあった。

価値ゼロと思っていた物件に価値を見いだしてくれる人がいると、所有者は勇気づけられたという。今のところ売却したいと考えているものの、活用してくれる人がいるのなら貸すという手も考え始めている。今後、売る、買うだけでなく、活用までアドバイスできる仕組みが付け加われば面白いだろう。

このほかにも、空き家の流通を活性化するには、いくつか改善すべきポイントがある。1つは、行政が保有する不動産関連情報の一元化だ。買った土地に家が建てられない、隣地との境界がはっきりしていない、水道が引かれていないといった購入後のトラブルを防ぐため、不動産の売買契約では、宅地建物取引士は多岐にわたる項目を調査する。法務局で謄本を取ることに始まり、税務署で固定資産評価証明書、道路課で道路台帳、水道局で水道管管理図を取る、法令上の制限を逐一確認するなど、手間がかかるのである。

しかし、政令指定都市クラスの自治体でなければ、こうした情報のデータベース化が遅れているほか、自治体ごとに部署名がバラバラだったり、必要な書類がそれぞれ違う場所にあったりする。そのため、情報を集めること自体にノウハウと時間がかかる。これが一元化され、素人でも簡単に調べることができるようになれば、買って安心かどうかがある程度予測できるようになり、流通は促進されるはずだ。

もう1つは、仲介手数料の見直しだ。現在、仲介手数料は、売買の場合、売買価格に応じて宅地建物取引業法で上限が決められており、売買価格が50万円だとしたら、仲介手数料は売買価格の5%が上限で、税込みで27000円。この金額で前述した各種調査を全部行うとしたら、とてもではないが割に合わない。つまり、不動産会社にとって取り扱うメリットがないのである。

国交省にも手数料を見直す動き

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石川県にある街並みが美しい海辺の物件も人気を集めた。現状では活用方法は未定だが、買い主は土地、建物のポテンシャルを生かしていきたいと意欲満々だ(写真:家いちば提供)

しかも、仲介手数料は成功報酬のため、売買が成立しなければ、何度現地に行こうが、いくら相談に乗ろうが一銭ももらえない。近隣の物件だけを扱い、どう売るかを考えなくても不動産が売れていた時代であれば、それでもよかったかもしれない。しかし、売りにくいものを工夫して売る時代には、売るための工夫などに関するコンサルティングに対してもなんらかの報酬を支払ってもいいのではないだろうか。

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石川県の物件の内部。きれいに保存されている(写真:家いちば提供)

こうした中、国土交通省も空き家流通を図るため、400万円以下の物件については、仲介手数料の上限を実費なども含めて18万(プラス消費税)にするという動きがあり、現在、パブリックコメントを募集している。早ければ12月中に公布、20181月から施行という計画というが、さて、それで空き家が動くようになるかどうか。

藤木氏の場合、仲介手数料は宅地建物業法で定められた手数料の半額としているが、物件所有者に必要な書類を取得してもらうなど、あの手この手で出費を抑え、大幅な収益にはならないが、赤字にもなっていない状況という。そのほか、入札方式とする場合の手数料を別途設けるなどの工夫もしている。

空き家関連のビジネスが乱立する中、家いちばに追随する動きがないのは仲介手数料を鑑みると割に合わないと考える人が多い結果だろうが、モノはやりよう、考えようなのである。

あちこちのセミナーで「空き家が増えているのなら安く買えないだろうか」と期待している人たちに会う。生活費の中で最も割合の大きい住居費が空き家利用で低く抑えられれば、暮らしも人生も変わる。空き家利用ならビジネスも始めやすい。そう考えると空き家の増加は、社会にとってはピンチだが、個人にとってはチャンスともいえる。そして、そのチャンスが積み重なっていくことがいずれ社会のピンチを救うことになるかもしれない。

 

【参考】

livedoor NEWS  17.11.20

news.livedoor.com